井上誠一氏の設計理念
華麗な造形美とともに
高度な戦略性が大きな特徴
井上氏の設計したコースは、華麗な造形美とともに高度な戦略性が大きな特徴といわれています。
これは、井上氏自身が各倶楽部の計画書の中で戦略性という言葉を頻繁に使っていることからもわかります。
また、コース設計を引き受けるにあたっては、素材となる土地を吟味し、
氏の条件を満たさないものはコース設計自体を引き受けず、
ゴルフ場開発そのものを断念するように依頼主側に説得する事も多々あった様です。
コースの仕上がりに関して最高のものを求め、頑固なまでに妥協を許さなかった井上氏の姿勢が、
傑作と呼ばれるゴルフコースを数多く完成させた功績と言えます。
井上氏は、ゴルフコースには大まかに言って、罰打型と戦略型の2種類があると語っています。
過去の遺物と断定した罰打型コース
罰打型とはあらゆるミスショット、つまりダフリ、トップなどの距離の出ないボールや、スライス、フックなどのまっすぐ飛ばなかったボールの全てに何らかの罰を与えるというコースです。多くの場合、ほとんど攻略ルートが限定されていて、それを外れるとパーはおろかボギーも難しいということになります。
しかしこういうコースでは上級者より初級、中級クラスに負担がかかる場合が多いようです。初級クラスになればなるほど、それだけミスショットの確率が増えるからです。
一方の戦略型とは、前述したように攻略ルートをひとつに限定しないコースを言います。例えばパーはとりやすいがそれだけ危険も多いルート、逆にパーは取りにくいが危険も少ないルートなど、選択の余地を残したコースのことです。
そのホールにおける最も理想的なルートで攻略できれば有利にプレーできるが、失敗すれば大きなトラブルが待ち受けている。プレーヤーは、与えられたルートの中から自分の技量に合ったルートを選びそのホールの攻め方を組み立てることができる――これが戦略型コースです。井上氏はこの二つのパターンのうち、罰打型は過去の遺物と断定し、近代的なゴルフコースは戦略的なコースであるべきだと考えました。
互換性を持つ2種類のハザード
また、コースの戦略性を高める上でハザードは、大きな意味を持っています。
ただ、一般的にハザードというとバンカーや池(ウォーターハザード)をさすものですが、井上氏は次のように語ったことがあります。
「池とバンカーのみがハザードではない。木もそうだし小山やフェアウェイのマウンド、傾斜もハザードと考える。ハザードを避けて通ると2オン、3オンが難しくなる。ハザードには挑むものであり越していくものだ。」
この言葉どおり、井上氏はいろいろな種類の障害物を巧みに取り入れ、そのゴルフ場を特徴づけています。


枚方カントリー倶楽部の場合、1番は左ドッグレッグの比較的短いミドルホールですが、当初コーナー部分の左サイドは林で、グリーンはブラインドになっていました。距離的にショートカットが可能なホールですが、そのために林に打ち込むトラブルが続出、運営に支障が出てきました。
そこでスタートホールのブラインドは印象的にもよくないという倶楽部側の希望もあり、井上氏に改良を求めたところ、樹木の間引きは認めたものの、今度はそこにバンカー群の設置を要求しました。

18ホールの調和を目指す
井上氏の設計コースを見てみると、18ホールもしくは36ホールのゴルフ場が多く、27ホールのゴルフ場は鳥山城カントリークラブ1箇所しかありません。
これはゴルフコースの単位を18ホールであると考えていた証拠です。それも原則として1番ホールからスタートし、18番ホールでフィニッシュするという基本的な考え方に立っていました。それを裏付けるのはショートホールの位置です。井上氏は生前、ショートホールは第一打でグリーンを攻めるものであり、基本的にそこにはホールとしての戦略性はないと語りました。おそらくそれが理由のひとつだと思われますが、氏が設計したコースには18番のホームホールにパー3を配した例はありません。
そして、コース全体としての戦略性も同様に18ホールで考えていたようです。
また、各ホールが平均的な難易度を持つ必要はないとし、難しいホールや易しいホールの組み合わせがあるからこそ、上級者にもボギーの可能性があり、ビギナーにもパーのチャンスが生まれてきます。
これが、プレーに面白さを加え、コースに変化を与えるわけで、この難易の組み合わせを18ホールのコース全体として調和させることが非常に大切であり、それがコースの戦略性を高める結果にもつながっていったのでした。
また、アウトとインの関係を1ホールごとの難易度は別にして、全体としてはほぼ同等であるべきだと考えていましたが、さらに、この9ホールを3ホールずつに分けて考えてもいます。つまり、前半・中盤・後半を区切る3ホールです。プレーヤーというものは、プレー中、自然に3ホールごとに分けてスコアを計算するというのが井上氏の考えであり、そのリズムを考慮したものです。
また、氏は3ホール続けて同じパーが並ぶことを好まなかったのですが、特にこの区切りの3ホールでパー4が並ぶことを避けようとしていました。
井上氏の死後建設された笠間東洋GCには氏の談話を書きとめたメモが残されています。以下引用します。
「ホールの組み合わせを考える上で、一番のポイントはパー3の位置である。理想からいえば、最初のショートホールは3番か4番に置きたい。そして距離は短目がよい。目安として普通の腕前の人が、アイアンクラブで打てる長さがよい。その理由として、スタート直後は体もほぐれていないし、その日の球癖もわからないし、調子もつかめない。それを最初から距離と正確さを要求するのはあまり望ましくない」
確かに氏の設計コースを見ると、まれに2・5番ホールに最初のパー3が配置されていることもあるが、多くは3・4番ホールに置かれています。
よいコースとは
前述のように井上氏はゴルフコースの条件として戦略性をまず第一に考えていましたが、具体的にはよいコースとはどのようなものと考えていたのでしょうか。氏は二つの目安があると語っています。
まず、世界のトッププロが初めてプレーし、説明や通訳もなく自分の判断を頼りに1ラウンドを72(パー)で回れるコースというのが第一の目安だといいます。第2はプロトーナメントを開催した場合、アンダーパーが10%、80を切れないプロが10%の割合で出るコースというもの。
それは、研ぎ澄まされた世界のトッププロが何の説明も受けずに、各ホールの攻め方をつかみ取れるコースだということができます。つまり見えないトラップなどがなく、そのコースの戦略的意図が明確に現れていて、よいショットにはよい結果をもたらすコースということであり、なおかつ、コースの戦略ルートをつかんだ一流プロでさえ極端なアンダーパーはマークできない難度を持ったコースということでしょう。
また、コースの長さについては、本格的なコースとしての最低条件は6.600ヤード程度を考えていたようです。
参考文献:
井上誠一のコースデザイン(一季出版㈱平成3年2月発行)より引用
P26-29・P33・P51-53・P56-70
井上誠一氏について
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